住宅ローンを抱えながら投資をしていると、必ずこの疑問にぶつかります。「余ったお金は、繰上返済と投資のどっちに回すべきなのか」

ネットで調べると「金利より高い利回りが期待できるなら投資」という説明が出てきます。方向としては合っているのですが、なぜそうなのか、どのくらいの差がつくのかまで数字で示しているものは意外と見つかりません。そこで計算機を作りました。

入力はすべてブラウザの中で処理され、どこにも送信されません。

繰上返済 vs 投資 シミュレーター 余ったお金をローンにぶつけるか、投資に回すか。同じ条件で比べます
A案 繰上返済(完済が早まる)
B案 投資優先(最終資産)
有利なのは
内訳と年ごとの推移を見る

※ どちらの案も毎月の支出は同じ(返済+投資=一定)にして、当初の返済期間が終わった時点の資産で比べています。 金利・運用利回りとも年利÷12の月複利。繰上返済は期間短縮型(毎月の返済額は変えず、完済時期を早める方式)です。 運用益への課税は考慮していません(新NISA内の想定)。枠外で運用する場合は利益に約20%かかるため、投資側は不利になります。 住宅ローン控除の期間中は、繰上返済で控除額も減ります。また手数料・団信・繰上返済の最低金額はローンによって異なります。

この計算機がやっている「土俵合わせ」

繰上返済と投資の比較は、比べ方を間違えるとどちらでも好きな結論が出せてしまいます。よくある不公平な比較はこれです。

  • 繰上返済側は「減った利息」だけを見て、完済後に浮くお金を数えていない
  • 投資側は「増えた資産」だけを見て、払い続けた利息を数えていない

この計算機は、次のように土俵をそろえました。

比較の前提
  • A案(繰上返済):毎月の返済額に上乗せして返す(期間短縮型)。完済したら、それまで返済に充てていた額をまるごと投資に回す
  • B案(投資優先):毎月の返済は通常どおり。上乗せぶんを最初から投資に回す
  • 毎月の支出は両案とも同じ(返済+投資=一定)
  • 当初の返済期間が終わった時点で、どちらも残債ゼロ。そこでの資産を比べる

こうすると「同じ財布から同じ額を出したとき、最後に手元に残るお金はどちらが多いか」という一本の質問に還元できます。

モデルケース:残高3,000万円・32年・金利1.5%

毎月3万円を上乗せできるとして、運用利回りを5%と仮定します。毎月の返済額は98,417円なので、どちらの案も月128,417円を支出します。

A案(繰上返済)を選ぶと

  • 完済が8年11ヶ月早まり、23年1ヶ月で終わる
  • 支払う利息が779万円 → 550万円229万円の節約
  • 完済後の8年11ヶ月で月128,417円を積み立てて、1,738万円

B案(投資優先)を選ぶと

  • 利息は779万円を払い切る
  • 32年間ずっと月3万円を積み立てて、2,834万円(元本1,152万円)

差は1,096万円で、B案(投資)の勝ちです。

ランカ
ランカ229万円も利息を減らしたのに、それでも負けるんですか?
ずきん
ずきんそうです。229万円を節約するために、32年ぶんの運用機会を手放しているからです。利息の節約額だけを見ると繰上返済は魅力的に見えますが、それは片方の皿しか乗せていない天秤です。

この記事の結論:損益分岐は、いつもローン金利ちょうどでした

ここからが、この計算機を作って一番おもしろかったところです。

「運用利回りが何%を超えたらB案が勝つか」を、条件を変えながら総当たりで計算しました。結果はこうです。

ローン金利 毎月の返済額 損益分岐の運用利回り
0.3% 81,945円 年0.30%
0.5% 84,558円 年0.50%
0.8% 88,577円 年0.80%
1.0% 91,323円 年1.00%
1.5% 98,417円 年1.50%
2.0% 105,837円 年2.00%
3.0% 121,625円 年3.00%

ぴったり一致します。しかもこれは、金利だけを動かした結果ではありません。

借入残高 残り期間 金利 月の上乗せ 損益分岐
1,000万円 10年 0.8% 10万円 0.8000%
5,000万円 35年 2.0% 1万円 2.0000%
3,000万円 32年 1.5% 20万円 1.5000%
800万円 5年 0.3% 15万円 0.3000%
4,500万円 30年 0.45% 0.5万円 0.4500%
2,000万円 20年 3.0% 8万円 3.0000%

残高も、期間も、繰上返済の金額も関係ありません。損益分岐となる運用利回りは、常にローン金利と完全に一致しました。実際、運用利回りをローン金利と同じ1.5%にして計算すると、A案とB案の最終資産は1,477.4161万円で、小数点以下6桁まで同じ値になります。

なぜぴったり一致するのか

理屈が分かると当たり前でした。

繰上返済で1万円を元金に充てると、その1万円にかかるはずだったローン金利ぶんの支払いが消えます。つまり繰上返済とは、ローン金利と同じ利回りで運用しているのと同じことなのです。

  • 繰上返済 = ローン金利で運用する
  • 投資 = 想定利回りで運用する

同じ財布から同じ額を出す以上、勝負は「どちらの利回りが高いか」だけで決まります。だから分岐点は金利ぴったりになる。残高や期間が影響しないのも、どちらの案でも同じお金が同じ期間だけ働いているからです。

言い換えるとこうなります

繰上返済は「ローン金利と同じ利回りで、税金ゼロ・手数料ゼロ・元本保証の運用商品」です。

金利1.5%のローンを繰上返済することは、年1.5%が確定でもらえる無リスク運用に投資するのと同じ意味を持ちます。この見方をすると、判断はぐっとシンプルになります。「年1.5%の確定利回りと、期待値5%だけど上下する運用。どちらを選ぶか」という、ただのリスク許容度の問題です。

そして、この「税金ゼロ・元本保証」という部分が効いてきます。投資の利回り5%は税引き前・期待値の話です。新NISAの枠内なら非課税ですが、枠を超えて特定口座で運用するなら利益に約20%かかるので、手取りベースでは5%が4%程度に目減りします。一方、繰上返済の1.5%は課税されません。表面の数字だけで比べると投資を過大評価します。

運用年利 A案 繰上返済 B案 投資優先
0% 1,381万円 1,152万円 −229万円
1% 1,444万円 1,357万円 −87万円
2% 1,511万円 1,612万円 +100万円
3% 1,583万円 1,930万円 +348万円
4% 1,658万円 2,330万円 +672万円
5% 1,738万円 2,834万円 +1,096万円
6% 1,823万円 3,473万円 +1,650万円
7% 1,914万円 4,285万円 +2,371万円

金利1.5%・残高3,000万円・32年の場合です。1%と2%の間で符号が変わり、そこから先は差が加速度的に開きます。

住宅ローン控除の期間中は、答えが変わります

ここまでは控除を無視した計算でした。実務ではここが一番効きます。

令和4年以降に入居した場合、住宅ローン控除は年末残高の0.7%が13年間、所得税・住民税から差し引かれます(国税庁 No.1211-1)。

つまり控除を受けている間は、ローンを借りていること自体が年0.7%のキャッシュバックを生んでいるわけです。繰上返済すると年末残高が減るので、その0.7%も一緒に失います。

控除期間中の実質的なローン金利=表面金利 − 0.7%

表面金利 控除期間中の実質金利 この期間の損益分岐
0.4%(変動) −0.3% 実質マイナス
0.7% 0.0% ほぼゼロ
1.0% 0.3% 年0.3%
1.5%(固定) 0.8% 年0.8%
2.0% 1.3% 年1.3%

変動金利0.4%で借りている人が控除期間中に繰上返済すると、実質金利がマイナス=繰上返済したぶんだけ損をします。「借りているほうが得」という珍しい状態が、最初の13年間は本当に起きています。

⚠️ 期間短縮型の繰上返済で、控除そのものが消えることがあります

住宅ローン控除には「償還期間が10年以上」という要件があります(国税庁 No.1211-1)。

期間短縮型の繰上返済をした結果、最初の返済月から最終の返済月までの期間が10年未満になると、その年以降は控除を受けられなくなります(国税庁 繰上返済等をした場合の償還期間)。

数十万円を繰り上げたせいで、残りの控除が丸ごと消えるケースがあるということです。控除期間中に大きな繰上返済をするなら、返済後の最終返済月がいつになるかを必ず先に確認してください。返済額軽減型を選ぶ、あるいは控除が終わってから繰り上げる、という回避策があります。

控除が頭打ちになっている人は、この話が当てはまりません

住宅ローン控除は「年末残高の0.7%」と「実際に納めている所得税+住民税(住民税からの控除は上限97,500円)」の小さいほうまでしか戻りません。

借入額が大きい、あるいは所得税額が小さい場合、すでに納税額のほうで頭打ちになっていることがあります。その状態なら残高を少し減らしても控除額は変わらないので、上の「−0.7%」は効きません。源泉徴収票と控除証明書で、自分が実際にいくら戻っているかを確認してから判断してください。

変動金利の人が本当に考えるべきこと

上の表は「今の金利」で計算しています。変動金利の人にとっての本当の論点は、金利が上がったときにどうなるかです。

繰上返済には、将来の金利上昇に対する保険という側面があります。元金を減らしておけば、金利が上がったときに増える利息の絶対額も小さくなるからです。

ただし順番があります。

  1. まず控除期間を確認する。控除期間中は実質金利がほぼゼロなので、急ぐ理由がありません
  2. 控除が終わってから、実質金利=表面金利に戻ったところで判断する
  3. そのとき金利が上がっていれば、繰上返済の「確定利回り」も上がっています。金利上昇は繰上返済の魅力を自動的に高めるので、その時点で判断し直せば十分です
ずきん
ずきん変動金利が上がると「早く返さなきゃ」と焦りがちですが、金利が上がるほど繰上返済という"運用商品"の利回りも上がるので、判断を先送りしても不利になりません。慌てて現金を全部ローンに入れるのが一番危険です。

それでも繰上返済を選ぶ理由(数字にならないもの)

計算上は投資が有利になりやすい、というのがここまでの結論です。ただし、この計算機に入っていない要素が3つあります。

計算に入っていない3つ
  1. 投資の5%は約束されていません。 繰上返済の1.5%は確定ですが、投資の期待値5%は「平均するとそのくらい」という話で、途中で30%下がる年があります。この計算機は毎年きっちり同じ利回りで回る前提なので、現実より投資を有利に描いています
  2. 団体信用生命保険が薄くなります。 繰上返済で残債を減らすと、万一のときに免除される金額も減ります。つまり繰上返済は生命保険を解約しているのと同じ効果を持ちます(この論点は持ち家とFIREの記事で詳しく書いています)
  3. 現金がなくなります。 ローンに入れたお金は、原則もう引き出せません。生活防衛資金を削って繰上返済するのは、順番として明確に間違いです

3つ目が一番大事です。繰上返済で一番よくある失敗は、手元の現金を減らしすぎることです。繰上返済したお金は取り戻せませんが、投資したお金は最悪売れば現金になります。この流動性の差は、計算式には出てこない実質的なリターンです。

結局どうすればいいか

計算結果と、計算に入らない要素を合わせると、順番はこうなります。

  1. 生活防衛資金を確保する生活費の6ヶ月〜2年ぶん)。ここを削って繰上返済しない
  2. 住宅ローン控除の期間中は、繰上返済を急がない。実質金利が0.7%引かれているので、投資が有利になりやすい局面です
  3. 新NISAの枠を優先する。非課税で運用できる枠は年間の上限があり、使わなかった年のぶんは戻ってきません(新NISAの使い方
  4. 控除が終わったら、表面金利と自分のリスク許容度で決める。「年◯%の確定利回りを買うか」という問いに置き換えて考える
  5. 繰上返済するなら、期間短縮型で償還期間が10年を切らないかを先に確認する
この計算機の限界
  • 運用益への課税を考慮していません(新NISA内の想定)。特定口座なら利益に約20.315%かかるので、投資側はそのぶん不利になります
  • 利回りを毎年一定として計算しています。実際の相場は上下し、とくに積立初期より終盤の暴落のほうが金額的な痛手は大きくなります
  • 繰上返済の手数料、住宅ローン控除、団信、金利の変動は含めていません
  • 本ページは特定の金融商品の購入を勧めるものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします(免責事項

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