「家賃を払い続けるのは、もったいない」
これ、私も30代前半にさんざん言われました。親からも、職場の先輩からも。実際、月10万円の家賃を35年払えば4,200万円です。数字だけ見ると、たしかにゾッとする。
でもFIREを目指し始めてから、この話には続きがあると気づきました。持ち家にすると「別のお金」が毎年出ていく。しかもそれは、家を売るまで一生続きます。
先に私の立場を明かしておきます。私は3年前に家を買いました。そして今も「FIRE到達の速さだけを考えるなら、賃貸のほうが有利だった」と思っています。 矛盾しているようですが、それも含めて数字を並べて整理してみます。
- 「賃貸か購入か」の勝敗は、住み続ける年数でほぼ決まる。モデルケースの試算では逆転は約38年目だった
- しかもその分岐点は、同じ家を借りたらいくらかで大きく動く。家賃の想定が月2万円違うだけで19年ずれる
- 持ち家にも固定資産税・修繕・保険という毎年数十万円の維持費がかかる。ここを抜いた比較は当てにならない
- FIRE的に本当に効くのは所有形態そのものより、住居費が手取りに占める割合を下げること
そもそも、日本人は住居費にいくら払っているのか
まず現実の数字から。総務省の家計調査によると、二人以上の勤労者世帯の消費支出のうち住居費が占める割合は、統計上は数%程度にとどまります。ただしこれは持ち家世帯(住居費にローン返済が計上されない)を含んだ平均なので、賃貸暮らしの実感とはかなりズレます。
賃貸世帯だけで見れば、住居費は支出の中で断トツの1位になるのが普通です。私自身、家を買う前は手取りの約3割が住むためだけに消えていました。家賃に共益費と駐車場を足すと、給料日に振り込まれた瞬間から3分の1が予約済み、という感覚です。
一方、購入側の数字。国土交通省の「住宅市場動向調査」では、注文住宅・分譲マンションとも購入資金の平均は数千万円規模で、そのうち自己資金は2〜3割、残りをローンで賄うのが一般的です。住宅金融支援機構のフラット35利用者調査でも、返済期間は30年超が多数派になっています。
つまり多くの人にとって購入とは、30年以上の固定費を一度の契約で確定させる行為です。ここがFIREとの相性を考えるうえで一番大事なポイントだと思っています。
何年住むかで、答えはひっくり返る
では実際、何年住めば購入が得になるのか。前提を置いて累計支出を計算し、グラフにしました。

物件3,500万円/頭金500万円+諸費用200万円・ローン3,000万円を35年 全期間固定1.5%(月91,855円)・維持費 年30万円。賃貸は同等物件を月12万円・初期費用50万円・更新料 年平均6万円で借りた場合。いずれも売却時に残る資産価値は含めていません。
前提は、3,500万円の物件を頭金500万円+諸費用200万円で購入し、残り3,000万円を35年・全期間固定1.5%で借りるケース。月々の返済は91,855円です。ここに維持費を年30万円上乗せします。比較相手は、同等の物件を月12万円で借りた場合です。
読み取れることは3つあります。
1つ目。購入は最初の700万円(頭金+諸費用)で大きく出遅れるため、序盤はずっと賃貸のほうが安い。10年目の時点でも、購入のほうが550万円ほど多く払っています。
2つ目。それでも差は毎年じわじわ縮み、35年目のローン完済で購入側の支出が年30万円まで落ちる。ここから一気に追い上げて、約38年目で逆転します。
3つ目。これは売却時に残る資産価値を一切含めていない数字です。35年後でも土地の価値は残るので、それを足せば実質的な逆転はもっと早く訪れます。ここは物件次第で大きくブレるため、あえて含めませんでした。
そして、この分岐点は前提しだいで派手に動きます。
| 同等物件の家賃 | 購入が追いつく時期 |
|---|---|
| 月10万円 | 約47年目 |
| 月12万円 | 約38年目 |
| 月14万円 | 約19年目 |
家賃の想定を2万円動かすだけで、結論が20年近くずれる。ネット上の「賃貸vs購入」記事で答えがバラバラなのは、この前提の置き方が違うからです。自分の地域で、同じような家を借りたらいくらか。 そこを調べずに始めた比較は、あまり意味がありません。
持ち家の「見えない毎年のコスト」を数えてみる
「ローンを払い終われば家賃ゼロ」という話、半分は正しくて半分は違います。ローンが終わっても消えない費用があるからです。

一戸建て・3,500万円クラスを想定した一例です。地域・物件・築年数で大きく変わります。マンションの場合は管理費と修繕積立金が別途かかり、築年数とともに上がるのが一般的です。
- 固定資産税・都市計画税:地域と物件によりますが、年10〜20万円程度になるケースが多い
- 修繕費:戸建てなら外壁・屋根・給湯器などで、10〜15年ごとにまとまった出費。国交省も長期修繕の必要性を繰り返し指摘しています
- マンションの管理費・修繕積立金:国交省のマンション総合調査によると、修繕積立金の平均は月1万円台。しかも築年数が上がるほど値上げされるのが一般的です
- 火災保険・地震保険:賃貸より補償対象が広いぶん、保険料も上がります
仮に維持費を年30万円とすると、35年で1,050万円。「家賃4,200万円がもったいない」の裏で、これだけ出ていきます。もちろん持ち家には資産が手元に残りますが、建物部分の価値は年々下がっていくのが前提です。
メリット・デメリットを、FIRE目線で並べる
- 転職・独立・移住に合わせて住居費を下げられる。FIRE後に家賃の安い地域へ移る選択肢が残る
- 初期費用が小さく、その分を早い段階から投資に回せる(時間を味方にできる)
- 修繕リスクを大家が負う。想定外の百万円単位の出費が起きにくい
- 世帯人数が変わっても身軽に住み替えられる
- 支払いが一生続く。FIRE後の生活費に住居費が丸ごと乗り続ける
- 高齢期の入居審査が通りにくくなる可能性がある
- インフレで家賃が上がるリスクを自分で負う
- 内装や設備を自由に変えられない
購入側は、これのちょうど裏返しです。長く住むほど1年あたりの負担は下がり、ローン完済後は住居費が維持費だけになる。FIRE後の生活費を大きく圧縮できるのは、間違いなく持ち家の強みです。実際、FIRE後に月8万円の家賃が消えれば、4%ルールで逆算して約2,400万円分の資産に相当する効果があります。
ただしそれは「完済まで住み続ける」「その間に大きな転居がない」という前提つきです。
- 住宅ローンは長期の借入契約です。変動金利を選んだ場合、金利上昇で返済額が増える可能性があります
- 物件価格は下落することがあります。売却時にローン残債を下回れば、差額の自己資金が必要になります
- 住宅ローン控除などの税制優遇は、制度改正で条件・控除額が変わります。最新の要件は国税庁の情報でご確認ください
- 頭金を投資に回す判断をする場合、投資には元本割れのリスクがあります。生活防衛資金まで投じるのは避けてください
- グラフと本文の数値は一般的な統計とモデルケースです。地域・物件・家族構成で結論は変わります
それでも、私が家を買った理由
ここまで読んで「じゃあ賃貸一択では」と思った方もいるはずです。私も、計算した時点ではそう思いました。
それでも3年前、家を買いました。
きっかけは家族ができたことです。妻と話し合う中で、住まいの話は数字の話ではなくなりました。子どもの生活の拠点をどこに置くか。もし収入が途切れても住み続けられる場所があるか。近所付き合いや学区をどう考えるか。どれも「累計コストの逆転は38年目です」という説明で片づく話ではありませんでした。
最後は、家族が納得して暮らせることの価値を、私が数字に換算できなかったというのが正直なところです。FIREは家族の生活を良くするための手段であって、目的が逆転したら意味がない。そう考えて、遠回りを選びました。
だから私は「賃貸のほうがFIREに有利」と書きます。同時に「だから買うべきではない」とは書きません。この2つは両立します。
すでに買った人が、FIREに近づくためにできること
私と同じく、もう買ってしまった方へ。持ち家でもやれることは残っています。
1. 団信を前提に、生命保険を見直す。 住宅ローンには通常、団体信用生命保険が付いています。契約者に万一のことがあればローン残債はゼロになる。つまり住居費分の死亡保障は、すでに確保されている状態です。買う前に入った生命保険をそのままにしているなら、保障が二重になっていないか確認する価値があります。ここは月数千円〜1万円台の削減になることがあります。
2. 繰上返済を急ぎすぎない。 住宅ローン控除の期間中は、年末残高に応じた控除が受けられます。低金利のローンを慌てて返すより、控除を受け切ってから考えるほうが有利になるケースがあります(金利や控除率、残りの期間によって答えは変わるので、自分の条件で計算してください)。
3. 住居費以外の固定費に手をつける。 住居費を動かせないぶん、通信費・保険・サブスクの見直し効果が相対的に大きくなります。私が格安SIMの比較を真剣にやったのも、住宅ローンを動かせないと分かったからでした。
4. 変動金利なら、上昇時の返済額を先に計算しておく。 「1%上がったら月いくら増えるか」を知っているかどうかで、心の余裕がまったく違います。
- 判断軸は「損か得か」より「その家に何年住むか」
- どちらを選んでも、住居費が手取りの25%を超えているなら見直しの余地あり
明日からできる一歩
大きな決断の前に、まず1つだけやってみてください。
今月の給与明細を出して、手取り額に対する住居費の割合を計算する。 賃貸なら家賃だけでなく共益費・駐車場・更新料の月割りも足します。持ち家なら、ローン返済額に固定資産税と修繕積立金の月割りを加えてください。
私はこれをやって3割という数字を見たとき、初めて「これは投資額より先に手をつけるべき固定費だ」と理解しました。住居費は、一度下げれば毎月自動的に効き続ける、家計で最も効率のいい削減対象です。
そしてもう1つ。購入を検討しているなら、同じような家を借りたらいくらかを調べてください。 上の表のとおり、そこが分岐点を決めます。
賃貸か購入かの結論は、その2つの数字を把握してからでも遅くありません。むしろ、把握していない状態で3,000万円の契約書にサインするほうが、よほど怖いことだと思っています。私はサインしてから計算した側なので、なおさらそう思います。
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