FIREの到達速度を決めるのは入金力、つまり毎年いくら積み立てられるかです。そして入金力の源は給料なので、「この先どれくらい給料が増えるのか」は資産形成の前提そのものになります。

厚生労働省の令和7(2025)年賃金構造基本統計調査の概況(令和8年3月公表)から、年齢・学歴・企業規模別の賃金カーブを自分で集計しました。集計に使ったコードは tools/make_chingin_charts.py にあります。

最初に、この統計の「賃金」の定義

この調査の「賃金」は2025年6月分の所定内給与額の月額平均です。残業代も賞与も含みません。年収ではないので、「月34万円?少なくない?」と思っても、そこに残業代とボーナスが乗ると考えてください。

ただしこの記事で見るのは「伸び方」なので、水準がどうであれ結論は変わりません。

まず、賃金カーブの形

性・年齢階級別の賃金カーブ(2025年)

年齢 男女計 男性 女性
20〜24 242.8 245.7 239.6
25〜29 279.4 288.0 268.8
30〜34 312.3 330.4 283.2
35〜39 340.6 366.2 292.4
40〜44 364.3 398.2 303.6
45〜49 377.9 420.7 305.7
50〜54 388.8 437.5 305.4
55〜59 396.2 445.6 305.7
60〜64 329.3 358.5 270.8
65〜69 285.3 304.3 240.7

単位は千円(月額・所定内給与額)。ピークは男女とも55〜59歳。

発見①:昇給は年1.86%。投資の期待リターンに届かない

20〜24歳から55〜59歳まで、35年かけて賃金がどれだけ増えるかを計算しました。

20〜24歳 55〜59歳 倍率 35年の年平均
男女計 242.8 396.2 1.63倍 1.41%
男性 245.7 445.6 1.81倍 1.72%
女性 239.6 305.7 1.28倍 0.70%

35年働いて1.6〜1.8倍。年平均にすると1.4〜1.7%です。

ただしこれは2025年時点の「別々の人」を並べた断面であって、一人の人のキャリアを追いかけた数字ではありません。個人の給料は「年齢が上がることによる上昇」に加えて「世の中全体の賃金水準の上昇」も乗ります。そこで、同じ資料の賃金の推移も見ました。

賃金(男女計)
2001年 305.8
2010年 296.2
2015年 304.0
2019年 307.7
2023年 318.3
2024年 330.4
2025年 340.6

2001年から2025年までの24年間で1.114倍。年平均0.45%です。(2010年は2001年を下回っています。)

この2つを足すと、個人が体感する昇給はこうなります。

個人の昇給 ≒ 年1.86%

年齢による上昇 1.41% + 世の中全体の上昇 0.45% = 年1.86%程度

一方、当ブログの計算機で使っている想定利回りは年4〜6%です。

つまり「昇給を待つ」より「運用する」ほうが、率としては2〜3倍速いということになります。もちろん元手が違うので単純比較はできませんが、資産が年収の2〜3倍を超えたあたりから、運用の伸びが昇給の伸びを金額で追い越します。

ランカ
ランカじゃあ昇給は期待しないほうがいい?
ずきん
ずきんいえ、逆です。若いうちは昇給のほうが圧倒的に効きます。資産100万円のときに年5%運用しても5万円ですが、月給が2万円上がれば年24万円です。入金力を上げるフェーズと、運用が主役になるフェーズは順番があるという話です。

なお2023年以降は+2.1%、+3.8%、+3.1%と、ここ数年だけ伸びが速くなっています。物価上昇を受けた賃上げですが、物価も同時に上がっているので実質の購買力が同じだけ増えたわけではありません。

発見②:60歳を過ぎたときの崖は、大企業ほど深い

賃金カーブは55〜59歳がピークで、そこから落ちます。この落ち方が、属性によってまったく違いました。

60歳を過ぎたときの賃金の下がり方

55〜59歳 60〜64歳 変化
大企業 465.9 357.7 −23.2%(月−10.8万円)
大学卒 529.1 420.2 −20.6%(月−10.9万円)
男性 445.6 358.5 −19.5%(月−8.7万円)
中企業 376.7 316.2 −16.1%(月−6.1万円)
高校卒 332.1 286.7 −13.7%(月−4.5万円)
大学院卒 676.2 589.8 −12.8%(月−8.6万円)
女性 305.7 270.8 −11.4%(月−3.5万円)
小企業 335.1 315.7 −5.8%(月−1.9万円)

大企業は−23.2%、小企業は−5.8%。同じ「60歳の壁」でも、落差が4倍違います。

理由は想像がつきます。大企業ほど定年と再雇用の制度がはっきりしていて、再雇用時に給与体系が切り替わるからです。小企業は「そのまま働き続ける」ケースが多いのでしょう。

FIRE設計への影響

「60歳まで働いてから考える」という計画を立てている人は、60歳以降の収入を55〜59歳の延長で見積もらないでください。大企業勤めなら、月10万円下がる前提で組むほうが安全です。

一方で、この崖は「早期リタイアの機会費用」を小さくする方向にも働きます。55歳で辞めても、その後10年働いて得られたはずの収入は、ピーク時の給与ではなく2割減の水準だからです。年金見込額シミュレーターで計算すると、55歳リタイアでも年金は65歳まで働いた場合の85.2%残ります。「あと10年働く」の価値は、思っているより小さいかもしれません。

発見③:格差は入口では小さく、年齢とともに開く

学歴別・企業規模別の賃金カーブです。

学歴別の賃金カーブ(男女計・2025年)

企業規模別の賃金カーブ(男女計・2025年)

年齢計で比べると、学歴間・企業規模間の差はこうなります。

学歴 賃金 高校=100
高校 297.2 100
専門学校 313.7 106
高専・短大 321.2 108
大学 396.3 133
大学院 517.4 174
企業規模 賃金 大企業=100
大企業 385.1 100
中企業 326.2 85
小企業 305.6 79

ここまではよく見る数字です。面白いのは、この差が年齢によって変わることです。

年齢 大学卒 ÷ 高校卒 大企業 ÷ 小企業
20〜24歳 1.17倍 1.14倍
35〜39歳 1.29倍 1.27倍
55〜59歳 1.59倍 1.39倍

入口の差はどちらも1.15倍程度しかありません。20代前半なら、大卒と高卒の月給差は3.9万円、大企業と小企業の差は3.2万円です。

それが55〜59歳になると、大卒と高卒で19.7万円、大企業と小企業で13.1万円の差になります。差は年齢とともに開くというのが、この統計の一貫した姿です。

ずきん
ずきんこれはFIREを目指す人にとって、実はいいニュースでもあります。若いうちは属性による差が小さい=スタート地点の不利が小さいということだからです。そして差が開ききる前にリタイアしてしまえば、その差は実現しません。

発見④:男女差は「入口」ではほぼ存在しない

男女間賃金格差は76.6(男=100)と公表されています。ただし年齢別に見ると、様子が変わります。

年齢 男性 女性 女性は男性の
20〜24歳 245.7 239.6 97.5%
25〜29歳 288.0 268.8 93.3%
40〜44歳 398.2 303.6 76.2%
55〜59歳 445.6 305.7 68.6%

20代前半では97.5%で、ほぼ差がありません。差が開くのは30代以降です。

そして女性の賃金カーブは、45〜49歳の305.7千円でほぼ完全に頭打ちになります(55〜59歳も305.7千円で同じ)。男性が45〜49歳の420.7から55〜59歳の445.6まで伸び続けるのと対照的です。

女性の35年間の年平均上昇率は0.70%。男性の1.72%の半分以下です。世帯としてFIREを設計する場合、この差を「たまたま」ではなく構造として織り込んでおくほうが計画は堅くなります。

まとめ:入金力の設計に落とすと

  1. 昇給は年1.86%程度。「そのうち給料が上がるから」を前提にした計画は、思ったより伸びません
  2. 若いうちは昇給、資産が積み上がったら運用が主役。順番があります
  3. 60歳以降の収入をピーク時の延長で見積もらない。大企業なら−23.2%を見ておく
  4. 属性による差は年齢とともに開く。若いうちの差は小さいので、そこで積み立て始めるほうが効きます
  5. この統計の「賃金」は所定内給与額。残業代と賞与は別なので、自分の年収に置き換えて考えること
🧮 FIRE計算機で自分の到達年齢を出す年齢・積立額・生活費から達成年齢を出します

※ 数字はすべて厚生労働省令和7(2025)年賃金構造基本統計調査の概況(第1表、第2表、第3表、第4表)から集計しました。「賃金」は2025年6月分の所定内給与額(残業代・賞与を含まない)です。集計に使ったコードは tools/make_chingin_charts.py にあります。