FIREの話は、どうしても「こういうモデルケースだと何歳」という試算になりがちです。ではその手前で、日本の世帯は実際にいくら持っているのか。そしてFIREに必要な額と、どれだけ離れているのか。
この記事は、公的な調査の生データを取ってきて、自分で突き合わせた結果です。使ったのは次の2つだけで、どちらも誰でも見られる一次資料です。
- 家計の金融行動に関する世論調査(2025年) / 金融経済教育推進機構(J-FLEC)— 年代別の金融資産
- 家計調査報告(家計収支編)2025年平均 / 総務省統計局 — 世帯の消費支出
- 平均値は使いものにならない。 二人以上世帯は平均が中央値の2.69倍、単身世帯は7.07倍も離れている
- 消費支出から4%ルールで逆算した必要額は、二人以上世帯で9,420万円。50代の中央値700万円は、その7.4%
- ところが年金を前提にすると必要額は1,273万円に落ちる。この基準なら60代の中央値1,400万円は110%到達している
- 勤労者世帯の平均貯蓄率は35.0%。この率を続けると、資産ゼロからでも26.8年でFIRE水準に届く計算になる
- 単身世帯の30.1%(50代は35.2%)が金融資産ゼロ。平均の裏側にはこの層がいる
1. 年代別に、実際いくら持っているのか
まず金融資産です。金融資産を持っていない世帯も含めた数字を、年代別に並べました。


| 年代 | 二人以上世帯 平均 | 二人以上世帯 中央値 | 単身世帯 平均 | 単身世帯 中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 20代 | 525万円 | 125万円 | 255万円 | 37万円 |
| 30代 | 1,096万円 | 311万円 | 501万円 | 100万円 |
| 40代 | 1,486万円 | 500万円 | 859万円 | 100万円 |
| 50代 | 1,908万円 | 700万円 | 999万円 | 120万円 |
| 60代 | 2,683万円 | 1,400万円 | 1,364万円 | 300万円 |
| 70代 | 2,416万円 | 1,178万円 | 1,489万円 | 500万円 |
| 全体 | 1,940万円 | 720万円 | 919万円 | 130万円 |
出典: 家計の金融行動に関する世論調査(2025年)/J-FLEC。金融資産を保有していない世帯を含む数字です。
平均値を見てはいけない理由
この表でいちばん大事なのは、平均値と中央値がどれだけ離れているかです。
- 二人以上世帯:平均1,940万円 ÷ 中央値720万円 = 2.69倍
- 単身世帯:平均919万円 ÷ 中央値130万円 = 7.07倍
平均値は、少数の高額保有世帯に引っ張り上げられます。単身世帯で7倍というのは、分布がそれだけ極端に偏っているということです。「同世代の平均は1,000万円らしい」と聞いて落ち込む必要はありません。真ん中の人は130万円です。
もうひとつ、平均の裏側にあるのが金融資産ゼロの世帯です。
| 年代 | 二人以上世帯 | 単身世帯 |
|---|---|---|
| 20代 | 21.6% | 33.2% |
| 30代 | 17.6% | 32.3% |
| 40代 | 18.8% | 32.1% |
| 50代 | 18.2% | 35.2% |
| 60代 | 12.8% | 30.4% |
| 70代 | 10.9% | 20.4% |
| 全体 | 15.7% | 30.1% |
単身世帯はどの年代でも3割前後がゼロで、50代では35.2%と最も高くなります。年齢を重ねれば自然に貯まる、というわけではないことがはっきり出ています。
2. 4%ルールで必要な額は、いくらになるか
次に必要額です。当ブログでも使っている4%ルール(年間支出の25倍)に、家計調査の実際の消費支出を入れます。
| 世帯区分 | 消費支出(月・2025年平均) | 年間 | 必要資産(×25) |
|---|---|---|---|
| 二人以上世帯(平均2.87人) | 314,001円 | 376.8万円 | 9,420万円 |
| 総世帯(平均2.15人) | 259,880円 | 311.9万円 | 7,796万円 |
| 単身世帯 | 173,042円 | 207.7万円 | 5,191万円 |
出典: 家計調査報告(家計収支編)2025年平均/総務省統計局。二人以上世帯は世帯主の平均年齢60.7歳、単身世帯は平均年齢58.6歳。
そして、これを先ほどの中央値と突き合わせるとこうなります。

| 年代 | 二人以上世帯の到達率 | 単身世帯の到達率 |
|---|---|---|
| 20代 | 1.3% | 0.7% |
| 30代 | 3.3% | 1.9% |
| 40代 | 5.3% | 1.9% |
| 50代 | 7.4% | 2.3% |
| 60代 | 14.9% | 5.8% |
| 70代 | 12.5% | 9.6% |
50代でも7.4%、60代で14.9%。 完全FIRE(働かずに資産だけで暮らす)を統計の真ん中の人が達成するのは、率直に言って現実的ではありません。
ここで終わると絶望的な記事になってしまうのですが、この計算には大きな前提の穴があります。
3. 年金を入れると、必要額が9,420万円→1,273万円になる
上の9,420万円は「収入がゼロで、資産だけで一生暮らす」という前提の数字です。でも日本の世帯には公的年金があります。
家計調査には、65歳以上の無職世帯の実際の家計が載っています。

| 可処分所得 | 消費支出 | 毎月の不足 | 平均消費性向 | |
|---|---|---|---|---|
| 夫婦高齢者無職世帯 | 221,544円 | 263,979円 | 42,435円 | 119.2% |
| 高齢単身無職世帯 | 118,465円 | 148,445円 | 29,980円 | 125.3% |
出典: 家計調査報告 2025年平均。夫婦高齢者無職世帯=65歳以上の夫婦のみの無職世帯。
年金生活に入った世帯は、毎月4.2万円(単身は3.0万円)足りていません。平均消費性向が100%を超えているというのは、そういう意味です。
裏を返すと、資産で埋めなければならないのはこの不足分だけです。
| 4%ルールで必要な額 | 30年分を単純に積み上げた額 | |
|---|---|---|
| 夫婦 | 1,273万円 | 1,528万円 |
| 単身 | 899万円 | 1,079万円 |
いわゆる「老後2,000万円問題」の数字に近いのが見えると思います。あれは同じ計算をしていたわけです。
そして、この基準でもう一度、年代別の中央値を見てみます。
| 年代 | 年金前提の必要額(1,273万円)への到達率 |
|---|---|
| 20代 | 9.8% |
| 30代 | 24.4% |
| 40代 | 39.3% |
| 50代 | 55.0% |
| 60代 | 110.0% |
| 70代 | 92.5% |
60代の中央値1,400万円は、年金前提の必要額を110%クリアしています。
同じ資産額なのに、前提を変えただけで「7.4%しか届いていない」が「110%達成している」に変わりました。FIREの必要額を計算するときに、年金を入れるかどうかがどれだけ効くかが、この2つの数字の差です。
この計算は「65歳から年金が満額出る」前提です。FIREして早期に退職すると厚生年金の加入期間が短くなるので、見込額そのものが下がります。
つまり早期リタイアで本当に問題になるのは、老後そのものではなく、
- リタイアから年金開始までのつなぎ期間(資産だけで暮らす期間)
- 早期退職で減った年金額
の2つです。自分の見込額は必ずねんきんネットで確認してください。つなぎ期間の資産の減り方は資産寿命シミュレーターで計算できます。
4. 平均的な勤労者世帯は、実は貯蓄率35%
もうひとつ、家計調査に面白い数字があります。二人以上世帯のうち勤労者世帯の家計です。
| 項目 | 金額(月) |
|---|---|
| 実収入 | 653,901円 |
| 可処分所得 | 532,408円 |
| 消費支出 | 346,297円 |
| 差額(貯蓄に回せる額) | 186,111円 |
| 平均消費性向 | 65.0% |
平均消費性向65.0%ということは、可処分所得の35.0%が残っているということです。これは貯蓄率35%に相当します。
当ブログのFIREに必要な金額と年数の出し方で使っている式(実質リターン年4%・資産ゼロから)に貯蓄率35%を入れると——26.8年。
30歳から始めれば57歳前後です。もちろんこれは「今の支出を維持したまま、余った分を全部投資に回し続けたら」という話で、実際には教育費も住宅費も来ます。それでも、日本の平均的な勤労者世帯には、そもそも月18.6万円の余力が統計上あるというのは、知っておいて損のない数字だと思います。
FIREが遠いのは収入が足りないからではなく、残った分が投資に回っていないからという側面が確実にあります。
5. この統計から言えること
数字を並べた結果、言えるのは4つです。
- 平均値は無視して中央値を見る。 二人以上で2.7倍、単身で7.1倍も離れている。平均と比べて落ち込む意味はない
- 完全FIREは統計の真ん中の人には遠い。 50代で7.4%。目指すなら「平均的な支出」から降りる必要がある
- 年金を入れると必要額は1/7以下になる。 9,420万円 → 1,273万円。60代の中央値は既にそれを超えている
- 勤労者世帯には月18.6万円の余力が統計上ある。 問題は稼ぎではなく、残った分の行き先
FIREを「完全リタイア」に限定すると数字は絶望的になりますが、年金までのつなぎを設計する問題として捉え直すと、必要額はぐっと現実的になります。当ブログが固定費削減をしつこく扱うのも、支出を下げると必要額と不足額の両方が同時に下がるからです。
自分の位置を計算する
上の表は「日本の真ん中の人」の数字です。自分の場合どうなのかは、こちらで出せます。
🧮 FIRE計算機で自分の到達年齢を出す年齢・資産・積立額・生活費を入れると達成年齢が出ます- 取り崩し期の計算(つなぎ期間の設計) → 資産寿命シミュレーター
- 貯蓄率から年数を出す考え方 → FIREに必要な金額と年数の出し方
- 支出そのものを下げる → 固定費を下げる順番
出典・データについて
- 家計の金融行動に関する世論調査(2025年) / 金融経済教育推進機構(J-FLEC) https://www.j-flec.go.jp/data/kakekin_2025/ 年代別の数値は「各種分類別データ」の金融資産を保有していない世帯を含む集計を使用しています
- 家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均 / 総務省統計局 https://www.stat.go.jp/data/kakei/
本文中の必要額・到達率・年数は、上記の公表値をもとに当サイトで計算したものです。計算式はすべて本文に書いてあるので、同じ手順で再現できます。**4%ルールは米国の研究にもとづく目安で、日本の税制・年金・為替では同じ結果になるとは限りません。**将来を保証するものではなく、投資には元本割れの可能性があります(免責事項)。