FIREの必要資産は「年間支出 × 25」で計算します。つまり支出の見積もりを間違えると、目標額が丸ごとずれます。
そこで、総務省統計局の家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要から、10大費目の内訳を自分で集計しました。総額だけを引用している記事は多いのですが、費目別まで見ると景色が変わります。
集計に使った数字とコードは tools/make_kakei_charts.py に全部書いてあるので、同じ手順で再現できます。
まず、何にいくら使っているか
二人以上の世帯の消費支出は月314,001円。その内訳です。

| 費目 | 月額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 食料 | 94,895円 | 30.2% |
| その他の消費支出 | 47,093円 | 15.0% |
| 交通・通信 | 45,730円 | 14.6% |
| 教養娯楽 | 32,125円 | 10.2% |
| 光熱・水道 | 24,547円 | 7.8% |
| 住居 | 18,678円 | 5.9% |
| 保健医療 | 15,863円 | 5.1% |
| 家具・家事用品 | 13,068円 | 4.2% |
| 教育 | 11,939円 | 3.8% |
| 被服及び履物 | 10,063円 | 3.2% |
| 合計 | 314,001円 | 100% |
ここから、拾って驚いた点を3つ書きます。
落とし穴①:住居費18,678円を鵜呑みにしてはいけない
この表を見て「住居費が月1.8万円?」と思った方は、正しい違和感を持っています。
内訳はこうです。
- 設備修繕・維持:10,584円
- 家賃地代:8,095円
家賃が月8,095円で済むわけがありません。理由は2つあります。
- 持ち家の世帯も分母に入っています。家賃をまったく払っていない世帯を含めた平均なので、賃貸の人の実感とは大きくずれます
- 住宅ローンの返済が消費支出に含まれていません。家計調査ではローン返済は「土地家屋借金純減」として黒字の内訳(資産形成)に計上されます。消費ではなく貯蓄側の扱いです
つまりこの数字を使って自分の生活費を見積もると、住居費をほぼ丸ごと落とすことになります。FIREの必要資産を計算するときの、一番大きな事故のもとです。
落とし穴②:エンゲル係数28.6%と「食料30.2%」が合わない
もうひとつ、集計していて引っかかった点です。
公表されているエンゲル係数は28.6%(前年から0.3ポイント上昇)。ところが上の表で食料94,895円 ÷ 消費支出314,001円を計算すると30.2%になります。1.6ポイントもずれます。
理由は資料の注記に書いてありました。エンゲル係数の計算に使う食料費は、他の世帯への贈答品やサービスの支出を含まない金額です。一方、10大費目の内訳に出てくる94,895円のほうは贈答品を含んでいます。
細かい話ですが、同じ資料の中に定義の違う「食料」が2つあるということです。他所の記事から数字を孫引きすると、こういうところで話が合わなくなります。
リタイアすると、支出は現役の76.2%になります
ここからが本題です。現役世帯とリタイア後の世帯を、費目別に比べました。
- 現役:二人以上の世帯のうち勤労者世帯(消費支出346,297円)
- リタイア後:夫婦高齢者無職世帯(65歳以上の夫婦のみ無職・消費支出263,979円)

| 費目 | 現役(勤労者世帯) | リタイア後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 食料 | 93,846円 | 78,964円 | −15.9% |
| 住居 | 20,085円 | 17,739円 | −11.7% |
| 光熱・水道 | 24,241円 | 23,540円 | −2.9% |
| 家具・家事用品 | 13,852円 | 11,237円 | −18.9% |
| 被服及び履物 | 12,120円 | 5,354円 | −55.8% |
| 保健医療 | 14,544円 | 17,941円 | +23.4% |
| 交通・通信 | 56,793円 | 31,325円 | −44.8% |
| 教育 | 18,700円 | 0円 | −100% |
| 教養娯楽 | 33,937円 | 26,538円 | −21.8% |
| その他 | 58,178円 | 51,341円 | −11.8% |
| 合計 | 346,297円 | 263,979円 | −23.8% |
勤労者世帯の費目別は構成比(%)でしか公表されていないため、消費支出346,297円に掛けて円に直しています。リタイア後は実額の公表値です。
リタイアすると消費支出は76.2%になります。月82,318円減る計算です。
内訳を見ると、減る理由がはっきりしています。
- 教育が丸ごと消えます(−18,700円)。子どもが独立するので当然です
- 交通・通信が45%減ります(−25,468円)。通勤がなくなり、車も手放す世帯が増えます
- 被服が56%減ります(−6,766円)。スーツも通勤着も要らなくなります
- 保健医療だけが23%増えます(+3,397円)。ここは避けられません
- 光熱・水道はほとんど減りません(−2.9%)。家にいる時間が増えるからです
この差は、必要資産で2,470万円になります
4%ルール(年間支出 × 25)で必要資産を計算すると、こうなります。
| 世帯 | 月の消費支出 | 必要資産 |
|---|---|---|
| 現役の勤労者世帯 | 346,297円 | 10,389万円 |
| 二人以上の世帯(平均) | 314,001円 | 9,420万円 |
| 高齢夫婦無職世帯 | 263,979円 | 7,919万円 |
| 単身世帯 | 173,042円 | 5,191万円 |
| 高齢単身無職世帯 | 148,445円 | 4,453万円 |
今の生活費で計算すると1億389万円、リタイア後の実績で計算すると7,919万円。差は2,470万円です。
FIREの目標額を「今の支出 × 25」で置いている人は、2,470万円ぶん高いゴールを追いかけている可能性があります。もちろん早期リタイアなら教育費はまだ残りますし、保健医療も年齢によります。それでも「今と同じ支出が一生続く」という前提は、統計を見る限り強すぎます。
この必要資産は「資産だけで生きる」前提の数字です。実際には公的年金があります。
高齢夫婦無職世帯の実収入は月254,395円(うち社会保障給付228,614円)で、消費支出263,979円との差は月42,434円の不足です。平均消費性向は119.2%で、赤字を資産で埋めている状態です。
つまり年金を前提にすると、必要なのは7,919万円ではなく「月4.2万円の不足を埋める額」になります。この考え方は資産寿命シミュレーターで計算できます。年金の見込額は年金見込額シミュレーターへどうぞ。
削るなら、どこから手をつけるか
費目別に見ると、金額の大きい単一項目が見えてきます。
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 自動車等関係費 | 28,355円 | 34.0万円 |
| 諸雑費 | 26,572円 | 31.9万円 |
| 外食 | 16,563円 | 19.9万円 |
| 調理食品 | 13,580円 | 16.3万円 |
| 電気代 | 13,219円 | 15.9万円 |
| 通信 | 11,672円 | 14.0万円 |
| 交際費 | 9,254円 | 11.1万円 |
| こづかい(使途不明) | 5,744円 | 6.9万円 |
単一項目で最大は自動車等関係費の月28,355円(年34万円)です。交通・通信45,730円の6割を占めます。車を1台減らせるかどうかは、格安SIMへの乗り換えの倍以上のインパクトがあります。
食料の内訳も見てみます。

外食16,563円+調理食品13,580円=30,143円で、食料費の31.8%です。食費を削るなら「安いスーパーを探す」より、この3割をどう扱うかのほうが効きます。ただし時間と手間とのトレードオフなので、FIREを目指す人ほど慎重に。自炊で月1万円浮かせるために毎日1時間使うなら、時給333円の労働です。
世帯タイプ別の全体像
最後に、世帯タイプごとの消費支出です。

| 世帯 | 月の消費支出 |
|---|---|
| 勤労者世帯(二人以上) | 346,297円 |
| 二人以上の世帯 | 314,001円 |
| 高齢夫婦無職世帯 | 263,979円 |
| 単身世帯 | 173,042円 |
| 高齢単身無職世帯 | 148,445円 |
単身世帯は二人以上の世帯の55%です。「2人だから2倍かかる」わけではなく、住居も光熱費も分け合えるぶん、1人あたりでは同居のほうが安く済みます。
高齢単身無職世帯は可処分所得118,465円に対して消費支出148,445円で、月29,980円の不足(平均消費性向125.3%)。二人世帯より不足額は小さいものの、収入が少ないぶん率としては厳しいという結果です。
まとめ
- 家計調査の住居費は自分の実額に差し替える。持ち家世帯を含む平均で、ローン返済も入っていません
- リタイア後の支出は現役の76.2%。「今の支出×25」は過大になりがちです
- 教育は消え、交通・通信は45%減り、保健医療だけが23%増える
- 単一項目で一番大きいのは自動車等関係費(年34万円)
- 年金を前提にすると、必要資産の考え方そのものが変わる
- 年代別の資産額と4%ルールの到達率 → 公的統計で見るFIREの現在地
- 何歳でFIREできるか → FIRE計算機
- 早くFIREすると年金がいくら減るか → 年金見込額シミュレーター
- 固定費を削る順番 → 固定費を下げる順番
※ 数字はすべて総務省統計局家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要(表Ⅰ-1-1、図Ⅰ-2-8、表2)から集計しました。集計に使ったコードは tools/make_kakei_charts.py にあります。