年金の話になると、必ず「平均月額は◯万円です」という数字が出てきます。でも平均だけでは、自分がどのあたりにいるのかが分かりません。

厚生労働省年金局の令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況には、参考資料として年金月額階級別の受給権者数、つまり分布そのものが載っています。ここから公表されていない中央値と分位点を自分で計算しました。

集計に使ったコードは tools/make_nenkin_bunpu_charts.py にあります。

厚生年金の受給額は、こう分布しています

令和6年度末時点で、厚生年金保険(第1号)の老齢年金の受給権者は1,608万5,696人(男性1,068万人・女性541万人)。公表されている平均年金月額は150,289円です(この額には基礎年金が含まれます)。

厚生年金の受給額の分布(男女別・令和6年度末)

グラフを見ると、男性は15〜20万円、女性は10〜15万円が最も多い帯だと分かります。そして20万円を超えたあたりから、女性はほぼゼロになります。

【自前集計】中央値を計算しました

階級別の人数から、中央値と四分位点を線形補間で出しました。

下位25% 中央値 上位25% 平均(公表) 中央値−平均
総数 108,694円 149,706円 189,697円 150,289円 −583円
男性 139,978円 174,238円 203,253円 169,967円 +4,271円
女性 90,516円 107,848円 129,210円 111,413円 −3,565円

厚生年金の平均と中央値(万円・月額)

中央値149,706円、平均150,289円。差はわずか583円です。

これは意外な結果でした。というのも、当ブログの公的統計で見るFIREの現在地で集計したとおり、金融資産では平均が中央値の2.69倍(二人以上世帯)もあるからです。一部の富裕層が平均を引き上げるためです。

年金にはそれが起きません。理由は制度の設計にあります。

年金の分布が圧縮されている理由
  • 上に蓋がある。厚生年金の計算に使う報酬には上限があります(標準報酬月額65万円、標準賞与額1回150万円)。年収がどれだけ高くても、年金はそれ以上増えません
  • 下に床がある。基礎年金は加入期間だけで決まるので、収入がゼロでも保険料さえ納めていれば満額に近づきます

つまり年金は「所得の格差を縮めて渡す」仕組みです。だから平均と中央値が一致する。逆に言えば、高収入の人ほど「払った割に戻らない」ことになります。この点は年金見込額シミュレーターでも確認できます。

それでも男女差は極端です

分布全体は圧縮されていますが、男女で見ると話がまったく違います。

月20万円以上 月15万円以上 月10万円未満
総数 18.8% 49.8% 19.0%
男性 27.5% 68.8% 9.3%
女性 1.7% 12.3% 38.2%

月20万円以上を受け取っている割合は、男性27.5%に対して女性1.7%。16倍の差です。そして女性の38.2%は月10万円未満です。

中央値で見ても男性174,238円・女性107,848円で、月66,390円(年79.7万円)の差があります。

これは賃金カーブの記事で見た構造がそのまま反映された結果です。女性の賃金は45〜49歳で頭打ちになり、35年間の年平均上昇率は0.70%(男性は1.72%)でした。厚生年金は現役時代の報酬と加入期間で決まるので、賃金の差はそのまま年金の差になります。

世帯で考えると、この差は設計に直結します。中央値どうしで足すと、こうなります。

世帯の形 夫の年金 妻の年金 世帯の合計(月)
共働き(どちらも厚生年金) 174,238円 107,848円 282,086円
片働き(妻は第3号で基礎年金のみ) 174,238円 70,608円※ 244,846円

※ 基礎年金の満額(令和8年度)。第3号被保険者の期間は保険料負担なしで納付済扱いになります。

共働きと片働きで、世帯の年金は月37,240円(年44.7万円)違います。

ずきん
ずきんFIREの設計で怖いのは、夫婦の年金を「2人分だから2倍」と置いてしまうことです。上の表のとおり、実際は1.4〜1.6倍にしかなりません。資産寿命シミュレーターに入れる年金額は、必ず2人それぞれの見込額を足した数字を使ってください。

「基礎年金だけ」の人は、どこにいるか

厚生年金の上乗せがない人、つまり自営業・フリーランスとして働いてきた方などです。この区分(「基礎のみ・旧国年」)の受給権者は560万8,982人、公表平均は56,337円です。

基礎年金だけの人の受給額の分布(令和6年度末)

自前集計した分位点はこうなります。

下位25% 中央値 上位25% 平均(公表)
45,518円 59,604円 66,534円 56,337円
  • 6〜7万円台に208万人(37.1%)が集中しています。満額(月70,608円)に近い層です
  • 月6万円以上は49.2%、つまり半分弱
  • 月5万円未満が31.6%。保険料の未納期間や免除期間がある方です

基礎年金だけで生活するのは、統計上まず不可能な水準です。家計調査の記事で見たとおり、高齢単身無職世帯の消費支出は月148,445円。中央値59,604円との差は月88,841円あります。

「厚生年金の平均は15万円」の落とし穴

最後に、この記事で一番お伝えしたい点です。

よく引かれる「厚生年金の平均月額は約15万円」という数字は、加入期間が25年以上の人だけを集計したものです。同じ資料には、加入25年未満の人の表が別にあります。

区分 人数 平均年金月額
老齢年金(加入25年以上) 16,085,696人 150,289円
通算老齢年金(加入25年未満) 14,514,498人 67,703円
両方の加重平均(自前計算) 30,600,194人 111,116円

25年未満の人は全体の47.4%、およそ半分を占めます。そして両方を合わせた加重平均は111,116円。よく見る150,289円より39,173円も低いのです。

しかも25年未満の1,451万人のうち、1,113万人(76.7%)が女性です。結婚・出産で就業期間が途切れた方が多く含まれていると考えられます。

どちらの数字が「正しい」わけでもありません

150,289円は「厚生年金に25年以上加入した人の平均」として正しい数字です。ただし「会社員だった人はだいたい15万円もらえる」と読むと過大になります。

自分がどちらに当てはまるかは、加入期間で決まります。ねんきん定期便・ねんきんネットで自分の加入月数を確認するのが唯一の答え合わせです。

自分の試算値が、分布のどこにあるか

当ブログの年金見込額シミュレーターで計算した金額を、この分布に当てはめてみます(23歳就職・平均年収600万円・65歳受給の条件)。

条件 試算額 全体で下から 男性の中で
45歳リタイア 130,899円 39.2% 20.3%
55歳リタイア 158,304円 55.2% 37.1%
65歳まで勤務 185,709円 72.5% 60.1%

55歳でFIREしても、受給額は全体のちょうど真ん中あたり(下から55.2%)に位置します。「早期リタイアすると年金で不利になる」というイメージほど、順位は下がりません。

ただし男性の中で見ると37.1%で、同性の平均的なサラリーマンよりは下です。比較する母集団によって印象が変わる点は、正直に書いておきます。

まとめ

  1. 厚生年金の中央値は149,706円で、平均とほぼ同じ(差583円)。資産統計とは正反対の性質です
  2. 理由は制度に上限と下限があるから。高収入ほど「払った割に戻らない」構造です
  3. 男女差は極端。月20万円以上は男性27.5%・女性1.7%。中央値で月66,390円の差
  4. 基礎年金だけの人の中央値は59,604円。高齢単身無職世帯の消費支出との差は月88,841円
  5. 「平均15万円」は加入25年以上の人だけの数字。25年未満を含めた加重平均は111,116円
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※ 数字はすべて厚生労働省年金局令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(参考資料3・4・5/令和6年度末現在)から集計しました。中央値・分位点・加重平均は公表値ではなく、階級別の人数から筆者が計算したものです(最上位の開いた階級は幅を仮定しています)。集計に使ったコードは tools/make_nenkin_bunpu_charts.py にあります。