当ブログの計算ツールを作っている途中で、おかしなことに気づきました。

国税庁のタックスアンサーに載っている基礎控除の表と、財務省が公表している令和8年度税制改正の内容が食い違っている。

調べたところ、答えは単純でした。改正法はすでに成立・公布済みで、国税庁のページの更新が追いついていなかったのです。

この記事では、令和8年分(=いま進行している2026年)から実際に何が変わったのかを一次資料で確認し、年収別の減税額を計算します。

まず事実確認:法律はもう成立しています

財務省の第221回国会における財務省関連法律にこう書かれています。

所得税法等の一部を改正する法律案 成立日:令和8年3月31日 公布日:令和8年3月31日

令和8年2月20日に提出され、3月31日に成立・公布済みです。中身は令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日 閣議決定)のとおりです。

国税庁のタックスアンサーはまだ改正前の表です

本記事の執筆時点(2026年9月)で、国税庁タックスアンサーNo.1199(基礎控除)No.1410(給与所得控除)「令和7年4月1日現在法令等」と明記されており、改正前の数字を載せています。

ページが間違っているわけではありません。「いつ時点の法令か」がきちんと書いてあるので、それを見落とさないことが大事です。ネットの解説記事の多くは、この日付を確認せずに数字だけ引いています。

何が変わったのか

改正の中身は3つです。

令和8年分から変わったこと
  1. 給与所得控除の最低保障額:65万円 → 74万円 (69万円へ引き上げ + 令和8年分・令和9年分の特例5万円)
  2. 基礎控除:合計所得2,350万円以下の控除額を4万円引き上げ(58万円→62万円) そのうえで加算額を組み替え。令和8年分・令和9年分は 合計所得489万円以下 → +42万円(=104万円)/489万円超655万円以下 → +5万円(=67万円)
  3. 結果として、課税最低限が160万円 → 178万円

課税最低限の中身を分解するとこうなります。

給与所得控除 基礎控除 課税最低限
改正前(令和7年分) 65万円 95万円 160万円
改正後(令和8年分) 74万円 104万円 178万円

基礎控除の全体像です。

合計所得金額 改正前 改正後(令和8年分)
132万円以下 95万円 104万円
132万円超 336万円以下 88万円 104万円
336万円超 489万円以下 68万円 104万円
489万円超 655万円以下 63万円 67万円
655万円超 2,350万円以下 58万円 62万円

基礎控除の段差(横軸は合計所得金額)

減税額を年収別に計算しました

所得税+住民税で、年間いくら減るのかを計算しました(単身・社会保険料は年収の15%として概算・基礎控除以外の控除なし)。

令和8年度税制改正で年間の税金がいくら減るか

年収 改正前 改正後 減税額
150万円 19,500円 10,500円 9,000円
200万円 62,574円 53,000円 9,574円
250万円 107,686円 99,518円 8,168円
300万円 149,224円 141,056円 8,168円
400万円 238,344円 230,176円 8,168円
500万円 355,926円 328,358円 27,567円
600万円 487,290円 450,534円 36,756円
700万円 654,306円 646,138円 8,168円
800万円 882,456円 874,288円 8,168円
1,000万円 1,394,596円 1,386,428円 8,168円
1,200万円 1,933,790円 1,924,397円 9,393円
1,500万円 2,912,169円 2,898,691円 13,477円

ほとんどの年収帯で年8,168円。ところが年収500万円で27,567円、600万円で36,756円と、突出して大きくなります。

なぜ年収500〜600万円台だけ大きいのか

理由は基礎控除の表にあります。

年収500〜600万円の人は、給与所得が356万〜436万円あたりに来ます。これは改正前だと「336万円超489万円以下=68万円」の帯でした。それが改正後は104万円になります。

基礎控除が一気に36万円増えるのは、この帯だけです。

年収 給与所得 基礎控除の変化 増加額
300万円 202万円 88万円 → 104万円 +16万円
400万円 276万円 88万円 → 104万円 +16万円
500万円 356万円 68万円 → 104万円 +36万円
600万円 436万円 68万円 → 104万円 +36万円
700万円 520万円 63万円 → 67万円 +4万円
1,000万円 805万円 58万円 → 62万円 +4万円

年収300万〜400万円台は基礎控除が16万円増えますが、所得税率が5%なので税額の減りは小さい。年収700万円以上は税率20%以上でも控除の増加が4万円しかない。その両方が重なる年収500〜600万円台だけが、大きく減税されるという構造です。

ランカ
ランカ偶然そうなったんでしょうか?
ずきん
ずきん大綱には「中低所得者に配慮しつつ」と書かれているので、意図はそちらでしょう。ただ実際の金額で見ると、恩恵が一番大きいのは中間層のさらに上のあたりでした。制度の説明と、計算した結果が必ずしも一致しないのは、よくあることです。

副作用:489万円の「段差」が7倍に広がりました

いいことばかりではありません。上のグラフをもう一度見てください。

合計所得489万円を1円でも超えると、基礎控除は104万円から67万円へ、37万円まるごと落ちます。

改正前は68万円→63万円で、落差は5万円でした。改正で落差が7倍以上に広がったことになります。

489万円の境目での落差 所得税率10%の人の増税
改正前 5万円 約5,105円
改正後 37万円 約37,777円

これが効いてくるのは、給与以外にも所得がある人です。副業・不動産・配当などで合計所得がこの境目をまたぐと、1万円多く稼いだ瞬間に手取りが3万円以上減ることが起こります。

当ブログの副業の手取り計算機で計算すると、本業年収600万円の人が副業の利益を53万円から54万円に増やしたとき、手取りは422,887円から390,026円へ、32,861円減ります。

この段差は令和10年分でまた変わります

大綱には、令和10年分以後は基礎控除の加算額を37万円に一本化すると書かれています(合計所得132万円以下の場合)。

つまり令和8年分・令和9年分の「489万円で37万円落ちる」構造は2年間限定です。税制は毎年変わるので、去年の記事の数字をそのまま使わない——それがこの記事で一番お伝えしたいことかもしれません。

ついでに確認:退職金課税は今回入っていません

FIRE界隈でよく話題になる退職所得控除の「20年の壁」(勤続20年を超えると1年あたりの控除が40万円から70万円に増える仕組み)については、見直しの議論が長く続いています。厚生労働省の審議会資料でも「転職の増加等の働き方の多様化に対応していないといった指摘もある」とされてきました。

今回の令和8年度税制改正の個人所得課税には、退職所得に関する改正は入っていません。大綱の該当章を確認しましたが、記述はありませんでした。

ただし令和7年度改正の分は、令和8年1月1日から動いています。確定拠出年金の老齢一時金を受け取る際の調整期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延びました。iDeCoを一時金で受け取る計画がある方には直接効きます(詳しくはiDeCo節税額シミュレーターに書きました)。

当ブログのツールも直しました

正直に書いておきます。この改正に気づく前に公開した計算機は、改正前の数字で計算していました。

気づいたきっかけは、退職金課税の記事を書こうとして令和8年度税制改正の大綱を読んだことです。国税庁のページだけを見ていたら、そのまま間違え続けていました。

現在はiDeCo節税額シミュレーター副業の手取り計算機改正後の数字に修正済みです。FIRE後の健康保険シミュレーターは、国民健康保険が住民税の基礎控除43万円(改正なし)を使うため影響がありませんでした。

この件から学んだこと

税金の情報を見るときは、必ず「いつ時点の法令か」を確認する。

国税庁のタックスアンサーには「令和◯年◯月◯日現在法令等」という表示があります。ここが古ければ、直近の改正は反映されていません。改正の有無は財務省の税制改正の大綱と、法律の成立・公布日で確認するのが確実です。

まとめ

  1. 令和8年分から、給与所得控除の最低保障額74万円・基礎控除は最大104万円。課税最低限は178万円
  2. 法律は令和8年3月31日に成立・公布済み。国税庁のタックスアンサーはまだ改正前の表
  3. 減税額は多くの年収帯で年8,168円。年収500〜600万円台だけ2.8万〜3.7万円と突出
  4. 副作用として、合計所得489万円の段差が5万円→37万円に拡大。副業などで境目をまたぐ人は要注意
  5. 令和10年分以後はまた変わる。税制の記事は年度を確認して読むこと
💼 副業の手取り計算機で段差の位置を確認する本業の年収と副業の利益から、増える税金と実際に残る額を出します

※ 改正内容は財務省令和8年度税制改正の大綱の概要(令和7年12月26日 閣議決定)、成立・公布日は財務省第221回国会における財務省関連法律にもとづいています。減税額は公表値ではなく、上記の前提で筆者が計算したものです。計算に使ったコードは tools/make_zeisei2026_charts.py にあります(2026年9月時点)。